No.15

プロット帳に残っていた文章


ノベルゲームにしようと思っていたのでそんな感じの文章。断片的。


◆プロローグ

 きっと、願ったのだろう。
 
 月が綺麗な夜だった。
 私は狭い『箱』の中に居る。
 体が鉛のように重い。目の前が真っ暗で何も見えない。それとは裏腹に耳が異常なほど冴えていた。自らの脳内でガンガンと鳴り響く痛みと、硬いものと擦れる金属の音。ドサドサと何かを落とす物音。それから、――。

 誰かが嗤った気がした。
 それでも良かった。
 だって、願ったのだ。
『ここから出たい』
 そして――


◆第一の部屋

 ――。
 ―――か…。
 ――――ですか…。

「大丈夫ですか…?」

 耳障りの良いソプラノの声で目を覚ました。
 さらり、と美しい金糸が頬をくすぐる。
 瑠璃色の女性がこちらを心配そうにのぞき込んでいた。
 しばらく彼女の美しさに息を呑み時間が止まる。
 が、すぐに飛び起きた。

「大丈夫です!ありがとうございます」
 膝枕――女同士で気恥ずかしいも何もないのだが、彼女の日本人離れした美しさに当てられてしまった。胸がバクバクして、顔は真っ赤になる。

「そうですか…良かった…。ずっと目を覚まさないので心配していたのです」
 そう言って彼女はまるで天使のように微笑んだ。また呆けてしまいそうになり、私は頭をブンブンと振った。

「ここは…」
 思考を切り替えるためにも、あたりを見回す。
 自分がいた場所、そこは、一面に広がる白――家具も何もない。ただの白いだけの『部屋』だった。

「はい。部屋…です。本当に『部屋』なだけ、な感じで。気付いたらここにいました」
 それは私も変わらない。部屋を見回すと、一方の壁に真っ赤な扉があった。
 その辺りに、二人の女性が立っていた。

「あ」

 二人のうちのひとり、背の高い白衣の女性と目が合う。
 ――そのまま白衣の女性の体がぐるん、と物凄い勢いでこちらに向かう。

「起きたんデスね――!!良かったデス!!」

 そしてそのまま不気味な道化師のような動きでこちらに飛びかかってきた。

 どういうことだ!?
 眠りから覚めたばかりのまどろんだ体がそのままの勢いで押し倒され、盛大に後頭部を打った。まどろみが吹き飛ぶ。

「大丈夫ですか!?」
 金髪の女性の悲痛な声が響く。
 イテテ、と白衣の女性は悪びれもなく起き上がり、下敷きになっている私をのぞき込んだ。

「あ。もーしわけないデス。
 アタシは罪形しと女デス!!これでもお医者の端くれなので、今のアナタのお怪我もチョチョイのチョイしちゃいマス!!」

 そういって白衣の女性――罪形さん――は、ぱぱっと私の頭を触る。
 すると、後頭部に響く鈍い痛みがすっと引いた。

「わあ…すごい…!」
 思わず感嘆の声をあげる。
「エヘー照れちゃいマス。もっと褒めて下サイー!」
 罪形さんはボサボサの頭を掻きながらデレデレしていた。

「なんだ、起きたのかい。お嬢ちゃん」

 ふいに声がかかる。
 扉の前に立っていたもうひとりの女性だ――女性?
「ふふ、なんだい鳩が豆鉄砲くらったような顔して。まぁ、アタシのこのナリじゃしょうがないか。アンタ、名前は?」

「葬田――じゅ里です」
 思考が停止したまま答えた。
 何せ、彼女、纏うオーラと口調に似合わず、小学生のような体型をしていたのだ。
 飴色の髪に菖蒲色の瞳、そして体格に似合わない蠱惑的な露出の多い衣服。
 全てがちぐはぐで、頭の中がチカチカした。

 その幼いのに老成した雰囲気のまま、女性は二カッと笑った。
「そ。アタシは財部みこ斗。
 お互い気味悪いモンに巻き込まれちまったね。
 まあアタシは職業柄荒事には慣れてるから、皆アタシを頼んなよ。大船に乗ったつもりでね」
 その笑顔は、そのまま全てを委ねることが可能であるような、そんな錯覚を見せてくれるような――とにかく、魅力的な笑顔だった。

***

 ――それから、自然と皆が財部さんのところに集まり、これからの“作戦会議”をしよう、という流れになった。

 目標は当然この部屋からの脱出。
 私が眠っている間、他の皆である程度部屋全体の探索をしたそうだ。

 分かったことは、この部屋には扉以外何もなく、さらにその扉には鍵が掛かっていて、開ける手段がないこと。

 こんな狭い部屋で4人密室――気が遠くなり始めたが、財部さんが手分けして鍵を探すことを提案してきたので、ほかにやるべきこともない皆はそれに乗った。

 結構経験豊富だという財部さんが一番重要な扉を。
 罪形さんはゴキブリのように這いまわりながら床を。
 金髪の女性は壁をくまなく探している。

 私に与えられた役割はというと
『皆がめぼしいところを見つけたらそれを確認し、
 見落としがないかチェックすること』だ。

 一介の女子学生に期待するなかれ、とても簡単な仕事を割り振られた。

 ――それにしても、みんな凄いと思う。

 皆どこか浮世離れしていて、こんな状況でも冷静だ。
 普段の私なら叫んで泣いて暴れていたところだが、皆が頼もしすぎて私も落ち着かざるを得ない。

 さて、誰かが何かを見つけるまで仕事がない私だけど。
 じっとしているのは性にあわない。
 ――うん。お互いのことを知っておくのは大事だ。手伝いがてら、皆のことを教えてもらおう。

 まずは金髪の女性のところへ行く。
 私が眠っている間に他の三人は情報交換を済ませのだから、彼女の名前を知らないのは私だけだ。

***

「…葬田さん? どうされました?」
「あ、えと、名前…を」
 無駄に緊張する。
「ああ! 私だけ自己紹介がまだでしたね。
 私は化乃原しづ華。
 よろしくお願いします、えっと…」

「葬田です!葬田じゅ里、16歳です」
 あわてて自己紹介をする。
「そうなんですか!私は本来なら学生…なんでしょうが、何分体が弱いので学校に通えず。深窓の暮らしをしてまいりました。」
そう話す化乃原さんは、なるほど深窓の令嬢だと納得させるお淑やかな雰囲気を纏っていた。

 気がつくと、化乃原さんがこちらをぼうっとした顔で見つめている。心なしか頬が赤い。

「えっ…と、私の父はこの国では有数の資産家だったらしいのですが、何分私は体が弱くて…。人との関わりを持てずにいました。ここは不気味ですけど、誰か関りを持って、こうやって協力して何かをするの、昔から憧れていたのです…」

 ずん、と胸に来た。化乃原さんはもじもじとしている。
 か、かわいい!!

(以下続き無し)

◆第二の部屋

 愛しているひとがいました。
 彼の、全てを包み込むような柔らかな微笑みが大好きでした。
 引っ込み思案な私の性格を叱るでもなく励ますでもなく、ただ、ありのままに、あるように受け入れ接してくれた彼に恋をしました。
 限られた逢瀬の中で膨らんでゆく恋心を誰かが止められるものでしょうか。彼の存在は私の中でどんどん大きくなって、そして――

「私はッ!!あの方に会いにゆくの!!誰にも邪魔させはしないわ――」

◆第三の部屋

 アタシ気づいちゃったんスよ…
 これはただの『神のお遊び』
 希望なんてないって
 ワタシはお人形大好きですけど
 ――私がお人形にされるのは気にくわない

 たくさんの『お人形』と『遊び』マシタ――
 アナタたちとっても好みデス
 どうせ 外に出ることになんの意味もないのなら
 せめて最期に ミンナで『遊び』マショ…?

◆第四の部屋

(何も文章浮かんでなかった)

◆最後の部屋

そこは、玉座だった。



「私やりたくてやったんじゃない!! アイツが悪いんだ!! 殺されたんだよ!? 許せるわけない 正当な復讐だ 当然の行為だ」
 熱い。熱い。アツイ。
 目の奥がせり上げるものが何なのか、自分が何を言っているのか、分からない。全身から炎が吹き出そうなほどの激情。



「ああ、……」
「あああぁぁ」
「あああぁああアアアァァアアアア!!」
 踏み出す。
 階段を滑るように駆け上がる。
 全ては、
「殺してやる、殺してやる、殺して――」
 そう。憎き悪神、人の心を玩具にする畜生の元へ。
 神に人間が勝てるわけがない。そんな事分かっていた。だから、これは――
「褒美がほしいか。まあ良かろ。そうれ」

 ぱん、と砕ける音がした。
 どしゃ、と落ちる音がした。

「まあ取るに足らぬ三文劇ではあったが、それこそ我が余興に欲したものだ。演者にはそれなりの褒美をやるのが通りであろう。」
 くつくつと嗤う声が聞こえる。
 階段が赤く染まっていく。上から、下へ。
 ああ――私は死ぬのだ。
 それでもいい、と思えた。もう生きていたくない。視界の端に財部から貰った化乃原さんのリボンが映る。最初は心の支えにしていたはずの〈物体〉。引き千切りたい衝動にかられる。何が優しさだ、思い出だ。怨むことすら面倒だった。いや、最初からあんな女、怨む価値すらなかったのに。愚かな私。でも、もうそれはお終い。私は今開放される。『生』という怨念渦巻く悪意の箱から。『死』という鍵によって。

「何を安堵している?」

 え?

「“生きたい。この箱から出て、あの憎き者どもに復讐したい”。願いは全て叶えてやったはずだが? あとは、“生きてこの箱から出る”だけだ」

 何?何を言っている?私はもう生きたくない。嫌だ。死にたい。死にたい。死なせて! もう、もう、私は生きていけない!!
 ねぇ、お願いだよ、殺して、私を、ころ――

「喧しいのう。そういう契約じゃ。我はそういうとこはキッチリするのじゃ」

 この、嗜虐的な笑み!
 嘘ばっかり言いやがって!

 目の前が光に包まれた。もがき、あがく、それでも転送は止められない。光が全てを覆い尽くす刹那、悪神の顔を垣間見る。
 あの最高に愉しそうな笑みと言ったら!!

***

 ――玉座に静寂が降りてくる。
 悪魔はため息をつきながら長い睫毛を退屈そうに伏せる。ぱちんと指を鳴らすと、銀細工のグラスが現れた。虚にグラスを掲げるとどこからともなく真っ赤な液体がどろりと注がれる。銀細工は一瞬で黒変した。
 神の悦楽のために悪意の箱に閉じ込められた哀れな女たち。その焦燥、妄執、狂愛、悲哀、怨讐、絶望。それらの毒をを悪魔はためらいもなく丸呑みした。
「うむ。美味よ」

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